コラム

​​なぜ半導体製造にクリーンルームが必要?仕組みと重要性をわかりやすく解説!

スマートフォンやパソコンの中に入っている半導体チップは、髪の毛の太さの1万分の1という想像を絶する細さで回路が作られていることをご存知ですか?このナノメートル単位の超微細な世界では、空気中に漂う目に見えないホコリ一粒でさえ、製品を完全に破壊してしまう巨大な障害物になってしまいます。

そこで不可欠となるのが「クリーンルーム」という超清浄な環境です。一般的な室内と比べて10万分の1以下という驚異的な清浄度を実現し、わずかな汚染も許さない厳格な管理により、現代社会に欠かせない半導体を製造しています。

本記事では、なぜ半導体製造にこれほど厳しい環境が必要なのか、そしてクリーンルームがどのような技術で超清浄環境を作り出しているのかを分かりやすく解説します。

半導体製造にクリーンルームが必要な理由

半導体の製造でクリーンルームが欠かせないのは、作られている部品が信じられないほど小さい世界だからです。現在の最先端半導体では、電気の通り道となる回路の幅が「3ナノメートル」と呼ばれるサイズまで縮小されています。これは、髪の毛の太さと比べると何万分の1というレベルで、ほぼ原子に近い大きさです。

このような超ミクロな環境では、私たちの目には見えないホコリや花粉、皮膚から落ちた微細なゴミでさえ、回路にとっては巨大な障害物になります。もし空気中の微粒子が半導体の材料であるウェハーの表面に付着すると、本来スムーズに流れるはずの電気が止まったり、意図しないところで電気が流れてしまったりします。その結果、製品が正常に動かなくなるのです。

問題なのは、その影響の大きさです。半導体は一枚のウェハーから多数の製品が作られるため、たった一粒のゴミが原因で、数億円分の製品すべてが使えなくなることも珍しくありません。そのため、空気のきれいさは「品質」だけでなく「生産効率」にも直結します。

さらに、目に見えない静電気も大きなリスクです。人が動くだけで発生するわずかな放電でも、繊細な回路を壊してしまう可能性があります。こうした理由から、半導体工場ではホコリの除去だけでなく、静電気対策まで含めた徹底した環境管理が求められているのです。

クリーンルームの仕組みと技術

クリーンルームは、ただ部屋をきれいにしているだけの空間ではありません。目に見えないレベルのゴミやトラブルを防ぐために、複数の技術が同時に働くよう設計された特別な環境です。

たとえば、空気中に浮かぶ微細なホコリを取り除く仕組み、空気の流れを一定方向に整える工夫、外から汚れた空気が入り込まないようにする圧力のコントロール、さらに機器や人の動きによって起きる静電気を抑える対策など、さまざまな技術が組み合わされています。これらが連携することで、日常生活では想像もできないほど清潔な状態が保たれているのです。

重要なのは、これらの仕組みがどれか一つでも欠けると意味をなさなくなるという点です。空気の流れが乱れたり、圧力管理が不十分だったりすると、せっかく除去したホコリが再び舞い戻る可能性があります。そのため、クリーンルームには綿密に考えられた設計と、日々の丁寧な管理が欠かせません。

次に、こうしたクリーンルームがどのような考え方と技術によって成り立っているのかを、順を追って解説していきます。

高性能フィルターシステム(HEPA・ULPA)

クリーンルームの「きれいさ」を支えている中心的な存在が、高性能な空気用フィルターです。このフィルターは、部屋に入る空気を何段階もチェックし、目に見えないほど小さなゴミまで取り除く役割を担っています。

代表的なものに「HEPAフィルター」があり、これは非常に細かなチリやホコリをほぼすべて捕まえることができます。さらに、より厳しい環境で使われるのが「ULPAフィルター」で、HEPAよりもさらに小さな粒子まで除去できるため、半導体工場などの超精密な現場で活躍しています。

これらのフィルターは、紙のように折りたたまれた構造になっており、空気が通る距離をあえて長くすることで、ゴミが繊維に引っかかりやすくなっています。加えて、静電気の力も利用することで、微細な粒子を逃さず捉える仕組みです。

特に高度なクリーンルームでは、天井一面にフィルターが設置され、室内に入る空気のほとんどが必ずろ過されるようになっています。

ただし、フィルターは使い続けるうちに汚れがたまり、性能が徐々に落ちていきます。そのため、空気の流れにかかる負荷を常に測定し、「交換すべきタイミング」を数値で判断しながら、定期的に新しいものへ取り替える管理が行われています。

一方向に流れる空気で汚れをためない仕組み

クリーンルームでは、空気の流れそのものが汚れ対策として活用されています。その代表的な方法が、天井から床へ向かって空気をまっすぐ流す仕組みです。

この空気の流れがあることで、作業中に人や機械から出てしまう微細なゴミやホコリが、その場に留まることなく、すぐに下へ押し流されます。空気があちこちに渦を巻くように動かないため、汚れが部屋中に広がりにくく、常にきれいな状態を保つことができます。

空気のスピードも重要で、速すぎず遅すぎない一定の速さに調整されています。これにより、軽い粒子が空中を漂い続ける時間をできるだけ短くし、すばやく室外へ排出します。

さらに、特に高い清潔さが求められる作業台の周辺には、その場所だけを集中的に守る空気の流れが用意されています。これにより、重要な工程では、部屋全体以上にクリーンな環境が確保されます。

こうした空気の流れがきちんと機能しているかどうかは、煙を流して動きを目で確認したり、空気中の粒子を測定したりしてチェックされます。その結果をもとに、機械の配置や部屋の構造も細かく調整され、空気が乱れないよう工夫されています。

外から汚れを入れない工夫と、静電気を防ぐ仕組み

クリーンルームでは、部屋の中の空気を外より少しだけ強く押し出す状態に保っています。こうしておくことで、ドアを開けたときや小さなすき間があっても、外の空気が中に入り込みにくくなります。イメージとしては、空気が常に外へ流れようとしているため、ホコリや汚れを含んだ空気を中に引き込まない、という考え方です。

また、部屋の中でも「よりきれいに保ちたい場所」と「そうでない場所」があり、空気は汚れやすい側から清潔な側へ流れないように調整されています。これにより、大切な作業エリアが空気の汚染から守られます。

もう一つの大きな課題が静電気です。私たちがドアノブに触れて「パチッ」と感じる静電気も、半導体のような精密な製品にとっては大きなダメージになります。そのため、床や壁、作業台には静電気がたまりにくい素材が使われ、作業する人も専用の服や靴を身につけます。

さらに、空気中の静電気を打ち消す装置を使い、目に見えない電気の偏りを減らしています。これにより、製品が静電気で壊れてしまうリスクを抑えています。

加えて、空気の湿度も重要なポイントです。空気が乾きすぎると静電気が起きやすくなるため、適度な湿り気を保つことで、静電気の発生そのものを起こりにくくしています。

このように、空気の流れ・素材・服装・湿度を組み合わせて管理することで、クリーンルームでは製品を汚れや静電気から総合的に守っているのです。

クリーンルームの「きれいさの段階」

クリーンルームは、すべてが同じレベルで清潔というわけではありません。実は、どれくらい空気がきれいかによって、いくつかの段階に分けられています。この基準は世界共通のルールで定められており、目的に合ったレベルの部屋が使われます。

この「きれいさ」は、空気の中にどれだけ細かなゴミが含まれているかで判断されます。数値が示されている場合は、その数字が小さいほど、空気中のゴミが少なく、より清潔な環境であることを意味します。

ISOで決められた「空気のきれいさ」の物差し

クリーンルームがどれくらい清潔かは、世界共通のルールである「ISO」という基準を使って判断されます。このルールでは、クリーンルームの清浄度をクラス1からクラス9までに分けており、数字が小さいほど空気がきれいな環境を意味します。

判断のポイントは、空気の中にどれだけ細かなゴミが含まれているかです。たとえば、非常に厳しいクラスでは、広さ1立方メートルの空間に存在してよい微粒子の数がごくわずかに制限されています。一方で、数字が大きいクラスになるほど、許される粒子の数は増えていきます。

この基準では、肉眼では見えないレベルの粒子をいくつかの大きさに分けて測定します。極めて小さなものから、比較的大きなチリまで段階的にチェックし、それぞれについて「ここまでならOK」という上限が定められています。

測定には、空気中の粒子を光で数える専用の測定器が使われ、クリーンルームが基準を満たしているかが定期的に確認されます。また、空気のきれいさだけでなく、室内の温度や湿度、部屋同士の圧力の差なども同時に管理され、トータルで安定した環境が保たれているかどうかがチェックされています。

このように、ISO規格は「なんとなくきれい」ではなく、数字で客観的にクリーンさを判断するための共通言語として使われているのです。

半導体づくりで求められる「ほぼ無塵」の環境

半導体は年々、より小さく、より精密に作られるようになっています。それに伴い、製造する場所の「空気のきれいさ」も、昔とは比べものにならないほど厳しく管理されるようになりました。

現在の最先端の半導体工場では、クリーンルームの中でも最上位クラスとされるレベルが使われています。この環境では、畳一畳ほどの空間に、目に見えないほど小さなゴミがほとんど存在しない状態が保たれています。空気の中に含まれてよい微粒子の数は、数えるほどしか許されません。

以前は、ある程度の清潔さが確保されていれば半導体を作ることができました。しかし、回路の幅がナノメートル単位まで縮んだ今では、わずかなチリでも不良につながるため、従来以上に厳しい管理が必要になっています。

とくに、回路を描き込む工程や、原子レベルで成分を加える工程では、工場全体よりもさらに清潔な環境が求められます。そのため、必要な場所だけを箱のように囲い、極限まで空気を管理する仕組みが使われています。これにより、半導体のような超精密な製品が安定して作られているのです。

クリーンルームのクラスは「用途別」に使い分けられる

クリーンルームにはいくつかの清浄度レベルがあり、作るものの繊細さに応じて使い分けられています。すべてを最高レベルにすればよいわけではなく、「どれくらい汚れを嫌う作業か」が判断基準になります。

もっとも厳しいクラスは、最先端の半導体を作る工程で使われます。回路を描き込んだり削ったりする作業では、わずかなホコリでも不良につながるため、ほぼゴミが存在しない環境が必要です。一方、部品を組み立てる工程では、そこまで極端な清浄さは求められないため、少し条件を緩めたクラスが使われます。

液晶ディスプレイの製造では、画面にゴミが混入するとムラや欠陥になるため、中程度の清浄度が確保された環境が選ばれます。精密機械の部品づくりでも、細かな異物を防ぐ目的で、一定レベル以上のクリーンルームが利用されます。

分野が変わると、必要な基準も変わります。医薬品の製造では、製品に雑菌や異物が混ざらないことが重要なため、比較的高い清浄度が求められます。一方、食品加工では安全性を保ちつつも、過度な設備は不要なため、さらに緩やかな基準が使われるのが一般的です。

また、同じ工場の中でも、すべての場所が同じレベルとは限りません。汚れが入り込みやすい工程や、品質への影響が大きい工程ほど、より厳しいクラスが設定されます。

このように、クリーンルームのクラスは「高ければ良い」のではなく、製品の特性・工程の重要度・求められる品質に合わせて、最適な清浄度が選ばれているのです。

運用管理と課題

クリーンルームは高度な技術システムであると同時に、適切な運用管理なしには性能を発揮できません。

人的要因、設備維持、経済性の3つの要素を総合的に管理することで、初めて安定した清浄環境を実現できます。これらの管理要素は相互に関連しており、一つでも不備があると全体の性能低下につながるため、継続的な改善と最適化が重要です。

作業員の入室管理(エアシャワー・防塵服)

クリーンルームでは、実は人そのものが一番の汚れの原因になります。人は動くだけで、目に見えないホコリや繊維くず、皮膚のかけらを常に放出しているため、そのまま入室すると環境を一気に汚してしまいます。

そのため、クリーンルームに入る前には、いくつもの準備工程を通る必要があります。まず、体の表面についたゴミを強い風で吹き飛ばす装置を使い、その後、専用の服装に着替えます。この服は、ホコリが出にくい素材で作られており、手袋やマスク、帽子、靴のカバーまで含めて、肌が外に出ないよう完全に身につけます。

こうした作業着は、使えば終わりではありません。定期的に専門的な洗浄が行われ、ホコリを出にくい状態が保たれるよう管理されています。

入室の流れも一気に中へ入るのではなく、段階的に環境を切り替える仕組みになっています。普段着のままのエリアから、着替え専用の場所、空気でゴミを落とすエリアを順に通過し、少しずつ清潔さのレベルを上げていきます。こうして準備を整えたうえで、ようやくクリーンルームに入室します。

このような厳しい手順を設けることで、クリーンルームの中の空気のきれいさが守られているのです。

設備メンテナンスの重要性

クリーンルームは、一度つくって終わりではありません。高い性能を保ち続けるためには、日常的な点検と手入れが欠かせません。

たとえば、空気をきれいにするためのフィルターは、使い続けるうちにゴミがたまり、空気が通りにくくなっていきます。そのため、空気の流れにかかる負荷を常にチェックし、「そろそろ限界だな」というタイミングで新しいものに交換します。交換の目安は環境によって異なりますが、定期的に入れ替えが行われています。

空気を送る装置や配管も同様です。風の流れが弱くなったり乱れたりすると、クリーンルーム全体の清潔さに影響が出るため、定期的な点検で小さな異常も見逃さないようにしています。

室内の温度や湿度、部屋ごとの空気の押し出し具合も、24時間体制で監視されています。設定した範囲から少しでも外れると、すぐに知らせが届く仕組みになっており、問題が大きくなる前に対応できます。

さらに、空気中にどれくらいゴミがあるかを測るチェックも毎日行われています。もし基準を超える数値が出た場合は、原因を調べ、必要な対策をすぐに実施します。

このように、「壊れてから直す」のではなく、トラブルを未然に防ぐ管理を続けることで、クリーンルームは安定した状態で運用されています。

コストと効果のバランス

クリーンルームの運用には、どうしても大きな費用がかかります。建物をつくる段階から特別な設備が必要になるため、一般的な工場と比べると、初期費用は桁違いに高くなることも珍しくありません。さらに、稼働を始めてからも、電気代や消耗品の交換、専門スタッフの人件費など、毎年まとまった運用費が発生します。

そのため、クリーンルームは「コストがかかる設備」と見られがちですが、見るべきポイントは支出だけではありません。空気の汚れが原因で不良品が減れば、製品として出荷できる割合が上がり、結果的に売上や利益が大きく改善します。この効果が、設備投資の負担を上回るケースも多く、適切な設計と運用ができれば、十分に元が取れる投資になります。

最近では、コストを抑える工夫も進んでいます。空調の動きを必要な分だけに調整したり、排気の熱を再利用したり、消費電力の少ない照明に切り替えることで、エネルギー使用量を大きく減らした例もあります。

また、工場全体を最高レベルで管理するのではなく、本当に重要な作業エリアだけを重点的にきれいにする方法も採用されています。こうした工夫により、品質を守りながら、無駄なコストを抑える運用が可能になっています。

まとめ|半導体を支える、目に見えない技術

半導体を作る現場では、ナノメートルという非常に小さな単位で加工が行われます。この精密な作業を可能にしているのが、クリーンルームという特別な環境です。空気を徹底的にきれいにする仕組みや、空気の流れを整える工夫、外から汚れを入れない管理、静電気を防ぐ対策など、さまざまな技術が組み合わさることで、日常空間とは比べものにならない清潔さが保たれています。

こうした環境は、一度整えれば終わりというものではありません。常に状態をチェックし、必要な手入れを続けることで、昼夜を問わず安定した運用が続けられています。その結果、半導体は途切れることなく生産され、私たちの身の回りにあるスマートフォンやパソコン、家電製品へと届けられています。

クリーンルームの技術が進化することで、より小さく、より高性能で、故障しにくい半導体が作れるようになります。目立つ存在ではありませんが、この“見えない環境づくり”こそが、デジタル社会を支える土台となり、私たちの暮らしの便利さを裏側から支えているのです。