コラム

冷媒ガスってなに?種類・特性・用途を解説!

冷蔵庫やエアコンなど、私たちの身の回りにある多くの冷却・空調機器に欠かせない「冷媒ガス」。一口に冷媒といっても、その種類は数十種類にも及び、それぞれ異なる特性や用途を持っています。

近年、地球環境への配慮から冷媒の種類や規制が大きく変化しており、機器選定や保守管理において冷媒に関する正しい知識がますます重要になっています。冷媒には「R-32」や「R-410a」といった番号が付けられていますが、実際にその意味まで理解している方は多くないのではないでしょうか。

本記事では、冷媒ガスの基本的な仕組みから、冷媒番号表の読み方、用途別の最適な冷媒選択まで、体系的に解説します。冷媒番号に隠された情報を読み解く方法を身につけることで、家庭用エアコンから産業用機器まで、あらゆる場面で適切な機器選定ができるようになります。

冷媒ガスとは

冷媒ガスとは、冷蔵庫やエアコンなどの冷凍・空調機器において、熱を移動させる働きを持つ媒体のことです。冷媒は機器内部で「蒸発」と「凝縮」を繰り返すことで、室内の熱を外部に運び出したり、逆に外部から熱を取り込んだりする重要な役割を担っています。

冷媒ガスの基本的な仕組み

冷媒ガスは、圧縮機(コンプレッサー)で圧縮されると高温・高圧の状態になり、凝縮器で冷やされて液体に変化します。その後、膨張弁を通過することで急激に圧力が下がり、蒸発器で再び気体に戻る際に周囲から熱を奪います。この一連のサイクルを「冷凍サイクル」と呼び、これによって冷却や暖房が実現されているのです。

身近な例として、家庭用エアコンでは室内機の蒸発器で冷媒が蒸発する際に室内の熱を奪って冷房効果を生み出し、室外機の凝縮器で冷媒が凝縮する際に外部へ熱を放出しています。冷蔵庫でも同様の原理で、庫内の熱を外部に運び出すことで食品を冷却保存しています。

冷媒ガスに求められる性能

理想的な冷媒ガスには、優れた熱力学的性質(効率的な熱交換能力)、化学的安定性、人体への安全性、環境への配慮、経済性などが求められます。しかし、これらすべての条件を完璧に満たす冷媒は存在しないため、用途や時代背景に応じて最適な冷媒が選択されてきました。

現在使用されている冷媒ガスは、フロン系冷媒(CFC、HCFC、HFC、HFO)と自然冷媒(アンモニア、二酸化炭素、炭化水素系)に大別されます。それぞれ異なる特性を持ち、家庭用から産業用まで幅広い分野で活用されています。

冷媒番号表と分類

冷媒ガスは化学組成や環境への影響によって複数のカテゴリーに分類され、それぞれが異なる特性と用途を持っています。現在使用されている冷媒を理解するために、まず冷媒番号表と分類システムを把握していきましょう。

冷媒は主にフロン系冷媒と自然冷媒に大別され、フロン系冷媒はさらに化学組成によって細かく分類されています。

CFC(クロロフルオロカーボン)

オゾン層破壊係数が高く、1996年に先進国で使用禁止となった冷媒です。代表的なものにR-12(CCl2F2)、R-11(CCl3F)があります。これらは優れた冷媒性能を持っていましたが、環境への深刻な影響から現在は使用されていません。

HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)

CFCの代替として開発された冷媒で、オゾン層破壊係数はCFCより小さいものの、依然として環境への影響があります。R-22(CHClF2)が代表的で、2020年に一部を除き全廃されました。地球温暖化係数(GWP)は1,810と比較的高い値を示しています。

HFC(ハイドロフルオロカーボン)

塩素を含まないためオゾン層を破壊しない冷媒として普及しましたが、強力な温室効果ガスであることが判明しています。R-410a(HFC-32/125混合物、GWP 2,090)、R-134a(CH2FCF3、GWP 1,430)などが代表的です。現在、段階的な削減が進められています。

HFO(ハイドロフルオロオレフィン)

次世代冷媒として注目される低GWP冷媒です。R-1234yf(CH2=CFCF3、GWP 1)のように、地球温暖化係数が極めて小さい特徴があります。ただし、微燃性(A2L)の特性を持つため、取り扱いには注意が必要です。

自然冷媒

アンモニア(R-717)、二酸化炭素(R-744)、炭化水素系(R-290プロパン、R-600aイソブタンなど)といった天然に存在する物質を冷媒として利用します。環境負荷は極めて小さいものの、毒性や可燃性の課題があります。

各冷媒には毒性・燃焼クラス(A1:無毒・不燃、A2L:無毒・微燃性、A3:無毒・可燃、B1:低毒性・不燃など)が設定されており、安全性の指標となっています。

冷媒番号(ASHRAE番号)の仕組み

冷媒番号は、国際標準化機構(ISO817)によって定められた体系的な分類システムです。「R-」で始まるこの番号には、冷媒の化学組成に関する重要な情報が込められており、一見ランダムに見える数字の羅列にも明確なルールがあります。この仕組みを理解することで、冷媒名を見ただけでその化学的性質をある程度推測することが可能になります。

冷媒番号は右から順番に読み解くのがポイントです。各桁にはそれぞれ意味があり、化学組成を表現しています。

  • R:Refrigerant(冷媒)の頭文字で、すべての冷媒番号の前に付きます
  • 千の位:不飽和炭化水素における炭素間の二重結合の数を表します。通常の飽和冷媒では0のため表記されません
  • 百の位:炭素原子の数から1を引いた値です。つまり、この数字に1を足すと実際の炭素原子数になります
  • 十の位:水素原子の数に1を足した値です。この数字から1を引くと実際の水素原子数になります
  • 一の位:フッ素原子の数をそのまま表します
  • 添え字:同じ分子式を持つ構造異性体や、混合物の組成を区別するために使用されます
具体的な読み方の実例

冷媒番号の仕組みをより理解しやすくするため、実際の冷媒を例に詳しく解説します。

R-32という冷媒番号を分解してみましょう。

  • 千の位:表記なし(0)→ 二重結合なし
  • 百の位:0 → 炭素原子は0+1=1個
  • 十の位:3 → 水素原子は3-1=2個
  • 一の位:2 → フッ素原子は2個

つまりR-32は、炭素1個、水素2個、フッ素2個からなるCH2F2(ジフルオロメタン)であることがわかります。実際にR-32は単一成分冷媒として家庭用エアコンに広く使用されています。

次に、より複雑な例としてR-134aを見てみましょう。

  • 千の位:表記なし(0)→ 二重結合なし
  • 百の位:1 → 炭素原子は1+1=2個
  • 十の位:3 → 水素原子は3-1=2個
  • 一の位:4 → フッ素原子は4個
  • 添え字:a → 構造異性体の区別

この場合、炭素2個、水素2個、フッ素4個の組み合わせでCH2FCF3となります。「a」の添え字は、同じ分子式C2H2F4を持つ他の構造異性体(R-134など)と区別するために付けられています。

冷媒ガスの種類と用途

冷媒ガスは用途に応じて最適な種類が選択されており、近年の環境規制強化により各分野で冷媒の転換が進んでいます。同じ冷却・空調機能でも、家庭用から産業用まで求められる性能や安全性のレベルは大きく異なります。

ここでは主要な用途別に、現在使用されている冷媒の種類と選択理由を詳しく見ていきましょう。

家庭用エアコン(RAC)

家庭用エアコンでは、従来主流だったR-410a(GWP 2,090)から、R-32(GWP 675)への転換がほぼ完了しています。R-32は単一成分冷媒で、R-410aと比較してGWPが約68%低く、優れた環境性能を持つのが特徴です。

また、冷房能力が高く省エネ性に優れ、配管内の冷媒充填量も約23%削減できます。R-32は微燃性(A2L)冷媒ですが、着火しにくく燃焼速度が遅いため、適切な施工で安全に使用できます。日本では2017年時点でほぼ100%がR-32に転換済みです。

業務用・ビル用エアコン

業務用エアコンでは容量や用途に応じて複数の冷媒が使い分けられています。中小規模の業務用エアコン(PAC)では家庭用と同様にR-32への転換が進んでいますが、大型のビル用マルチエアコン(VRF)では冷媒配管が長距離に及び充填量も多いため、微燃性冷媒の採用には慎重な検討が必要です。

現在もR-410aが主流ですが、環境規制強化を見据えてR-454b(GWP 466、A2L)などのより低GWP冷媒の検討も進められています。システム設計や安全対策の見直しを含めた総合的なアプローチが求められています。

冷凍・冷蔵分野

冷凍・冷蔵分野では用途や温度域に応じて多様な冷媒が使用されています。コンビニやスーパーのショーケースでは、従来のHFC冷媒から自然冷媒への転換が進んでおり、特にCO2(R-744、GWP 1)冷媒システムの採用が拡大しています。

小型システムではHC冷媒(R-290プロパン、R-600aイソブタン)の採用も見られ、これらは極めて低いGWP値(10以下)です。ただし可燃性(A3)のため適切な安全対策が必要です。低温冷凍用途ではアンモニア(R-717)との組み合わせシステムも使用されています。

自動車用エアコン

自動車用エアコンでは走行中の安全性確保と環境性能の両立が重要な要素です。従来のR-134a(GWP 1,430)から、R-1234yf(GWP 1)への転換が世界的に進んでいます。欧州では2017年以降の新車でGWP 150以下の冷媒使用が義務化されており、この規制が転換を後押ししています。

また、自動車用冷媒は振動や温度変化への耐性、事故時の安全性、コンパクトなシステム設計への適合性が必要です。R-1234yfはこれらの要件を満たしながら優れた環境性能を実現しており、電気自動車の普及とともにさらなる効率向上が期待されています。

産業用・特殊用途

産業用・特殊用途では極めて厳しい条件や特殊な性能要求に対応するため、多様な冷媒が使い分けられています。

大規模冷凍倉庫ではアンモニア(R-717)が使用され、優れた熱力学的性質と極小のGWP(<1)を持ちますが、毒性があるため専門的な安全管理が必要です。化学プラントでは腐食性環境に対応する特殊冷媒、医療・研究機器では液体ヘリウムや特殊HFC混合冷媒が使用されます。

データセンターでは高効率冷却が求められ、間接蒸発冷却システムでの水利用や高効率HFC冷媒の採用が進んでいます。各用途で環境性能、安全性、効率性、経済性のバランスを総合評価した最適な選定が重要です。

まとめ|冷媒特性を理解して機器選定の精度を高めよう

本記事では、冷媒ガスの基本的な仕組みから冷媒番号表の読み方、用途別の最適な選択方法まで幅広く解説してきました。これらの知識を実践で活用することで、より精度の高い機器選定が可能になります。

冷媒番号の仕組みを理解することで、「R-32」や「R-410a」といった表記から化学組成や基本特性を推測できるようになり、互換性や安全性の初期判断が行えます。また、各用途における冷媒選択の背景を知ることで、なぜその冷媒が選ばれているのかを理解し、将来の技術動向も予測できるでしょう。

環境規制の強化により、冷媒業界は大きな変革期を迎えています。GWPの小さい微燃性冷媒や自然冷媒への転換が進む中、従来とは異なる安全対策や取り扱い方法が求められています。こうした変化に対応するためにも、冷媒の特性を正しく理解することが不可欠です。

本記事で得た知識を活用し、持続可能で安全な冷却・空調システムの実現に役立てていただければと思います。