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ステンレスの腐食の原因とは?腐食の種類や対処法も解説

ステンレスは一般的に腐食しにくい(サビに強い)材質として知られており、家庭から大型設備まで広い範囲で使われる素材です。ただし、「絶対にサビない」わけではなく、使い方によっては腐食するおそれがあります。ステンレスを長持ちさせるには、腐食が起きやすい状況を理解し、正しいお手入れや掃除をすることが大切です。適切なケアを行えば、耐用年数を伸ばすことも可能でしょう。

本記事では、ステンレスが腐食してしまう原因や腐食の種類、腐食させないポイントについて解説します。

ステンレスは腐食しにくいが、メンテナンスは必要

ステンレスは、鉄を主成分としながらクロムやニッケルを含む「合金」の一種です。腐食しにくい性質は、クロムによる「不動態皮膜」という保護層のおかげです。

まず、金属の腐食とは、空気中の酸素や水分との化学反応によって金属が変質し、消耗していく現象のことを指します。たとえば、鉄の部品が空気中の酸素・水分と反応して「酸化」し、錆びていく仕組みになります。

一方、ステンレスでは、鉄よりも先にクロムが空気中の酸素と結びついて酸化し、数nmの薄い「不動態皮膜」が表面を包みます。この皮膜がステンレス全体を覆い、腐食から守ってくれるのです。この皮膜は強度が高く、もし一部が傷ついても酸素があればすぐに再生する性質を持っており、腐食しにくい状態を保ちます。

しかし、まったく腐食しないわけではありません。特定の物質の付着や接触、塩素イオン濃度が高い環境下などにおいては、皮膜が壊れたり再生が妨げられたりすることがあります。ステンレスを長持ちさせるためには、適切な洗浄やメンテナンスが重要となります。

ステンレスが腐食してしまう原因

ステンレスが腐食するのは、主に4つの原因が考えられます。

塩分の付着

ステンレスは塩分にある程度耐性がありますが、塩分が表面に残った状態が続くと、錆が発生します。そのため、塩分を含むものをステンレスで長期間保管するのは適しません。また、海岸沿いや人の汗がつきやすい場所で使用すると、不動態皮膜が不安定になり、腐食が進む可能性があります。

もらい錆

鉄や金属の粉などがステンレス表面に付いたまま放置すると、付着物が錆びることでステンレスにも錆が広がることがあります。これは「もらい錆び」といい、付着物のせいで不動態皮膜が不安定になり、ステンレスも腐食しやすくなる仕組みです。

汚れや水分の付着

ステンレスの表面に汚れや水分が残っていると、その部分に酸素が届きにくくなり、不動態皮膜が十分に形成されなくなります。すると、皮膜がない箇所ができてしまい、そこに別の成分が付着しやすくなって錆びやすい環境が生まれます。

酸やアルカリの液体の使用

酸やアルカリの液体や薬品を使った場合、ステンレスの不動態皮膜が損なわれ、腐食が進む可能性があります。このケースは、硫黄や酸などを含む工場の排気ガス、排水などが原因となって起きることが多いです。酸やアルカリを含んだ物質が皮膜にダメージを与えることで腐食が起こります。

腐食の種類

腐食にはさまざまな種類があり、発生要因も異なります。それぞれの発生要因を把握しておくと、注意点を押さえてステンレスを活用できるようになるでしょう。ここからは種類を5つ解説します。

全面腐食

皮膜が形成されず、表面全体にわたって均一に腐食が進んでいる状態です。これは屋外環境でよく見られる腐食の一例でもあります。

具体的には塩酸や硫酸、有機酸など、酸化力の弱い酸にさらされる環境で発生し、徐々に腐食が進みます。ただ、このタイプの腐食は進行具合を把握しやすく、余寿命の予測が容易にできるため対策を講じやすいです。

孔食

表面が局部的に腐食した状態で、塩化物質が付着することで小さな点や孔のように侵食が進みます。潮風が当たる海岸沿いのガードレールや部品の繋ぎ目などによく見られる腐食です。

塩化物イオンが多い環境では、皮膜を維持するためのクロムが不足し、皮膜が形成されない部分が出てくるため、腐食が始まっていくことが原因です。全面腐食よりもかなり早い速度で進行していきます。

すきま腐食

隙間から部分的に腐食が進行している状態で、特に機械のボルト部分や溶接部などでよく見られる腐食の一種です。金属の接合部分に、人間の目には見えないほどの極めて小さな隙間でも発生することがあります。

隙間部分はどうしても酸素の供給が少なくなり、皮膜を維持するために必要な酸素が足りなくなるため、腐食が始まります。こうした腐食は徐々に進行し、特に液体が溜まりやすい場所ではさらに進行しやすくなります。

粒界腐食

ステンレスを450℃〜850℃で加熱すると炭素とクロムが結びつき、「クロム炭化物」が形成されます。この際、クロムが炭素と結合することで、周辺のクロムが不足し、その部分の耐食性が低下するため、腐食が進行しやすくなります。

ステンレスを再び高温で固溶化熱処理することでクロムを金属内に再び戻すことも可能です。しかしこの処理をしなければ欠乏した状態が続き、欠乏している部分から腐食が始まります。

異種金属接触腐食

異なる金属が電気を通す水中内で触れあうと、触れ合った金属の一方がプラス極、もう一方がマイナス極になって電池を形成します。この電池は金属間の電位差から両者の間に発生した「腐食電池」で、これによって電位の低い方の金属がイオン化し、腐食を進行させます。

ステンレスを腐食させないためには?

ステンレスは様々な原因で腐食することがありますが、適切な対策をおこなえばそのリスクを軽減できます。ここからは腐食させないためのポイントを3つ解説します。

  • 定期的な洗浄をおこなうこと
  • 錆が生じにくい構造にすること
  • コーティング剤を利用すること
定期的な洗浄をおこなうこと

鉄や金属の粉、塩化物質の付着などから腐食は起きてしまうので、定期的な洗浄をすることが重要です。洗浄方法や使用する洗剤なども考えて、十分な洗浄をおこないましょう。

また、水分が付いたままだとそれも腐食が進む要因となります。乾いた布やウエスで拭きあげて乾燥させるようにしましょう。

錆が生じにくい構造にすること

腐食を防ぐためには、錆が発生しにくい設計にするのも効果的です。

先ほども触れたように、部品の繋ぎ目のようなすき間でも腐食は起きてしまいます。そのため、部品や溶接が必要な部分を少なくすれば、腐食のリスクを軽減することができます。

また、工場機器・設備の場合、前もって腐食が想定される部分を交換しやすい部品にしておいたり、簡単に部品交換できる設計にしておいたりすることも有効な対策です。

コーティング剤を利用すること

腐食の要因の中には、原因となる物質に触れなければ発生を抑えられるものもあります。その場合は、事前にコーティングをおこなっておくことで腐食を防止できるでしょう。コーティングとは物体の表面に薄膜を付着させて覆う施工のことです。

具体的におこなわれている方法は、樹樹脂やガラスを用いたものが一般的です。コーティングは全体に施すことも、溶接部分のみを対象にすることも可能です。機器や設備によって適切なコーティングを施すとよいでしょう。

まとめ

ステンレスは腐食しにくい性質ですが、全く腐食しないわけではありません。要因を把握してどのような対策を施すかが重要となります。以下のポイントをおさえて対策を施しましょう。

  • 定期的な洗浄をおこなうこと
  • 錆が生じにくい構造にすること
  • コーティング剤を利用すること

対策を施すことで耐用年数を伸ばすことが可能なので、製品を使っている人や機器を利用している企業はぜひ活用してみてください。